03.内縁関係の相手の居住権の保護
内縁関係の相手の持家に住んでいた場合
内縁関係の相手(内縁配偶者)には相続権がありません。そうすると、他方の内縁配偶者の持家に住んでいた場合、家の持主が相続人がいないまま亡くなると、原則として相続財産は国のものになるため(民法959条)、残された内縁配偶者は住む場所を失う可能性があります。
ただし、民法には「被相続人と生計を同じくしていた者」に清算後に残った相続財産の全部または一部を与えることを認める制度(特別縁故者に対する相続財産の分与、民法958条の3)があるため、その適用が認められれば、残された内縁配偶者の居住を保護することもできます。
[民法]
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第958条の3 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人
と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別
の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全
部又は一部を与えることができる。
② 前項の請求は、第958条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
(残余財産の国庫への帰属)
第959条 前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場
合においては、第956条第2項の規定を準用する。
しかし、死亡した内縁配偶者に相続人がいる場合は、この制度を適用することはできません。
そこで、判例は、死亡した内縁配偶者の持家を相続した者が、生存している内縁配偶者に対して明渡請求をした場合について、「権利の濫用」であるとして保護を図っています(最判昭和39.10.13)。
また、死亡した内縁配偶者の共有持分を相続した者が、生存している内縁配偶者に対して賃料相当額の金銭を請求(不当利得返還請求)した場合も、「内縁の夫婦がその共有する不動産を居住または共同事業のために共同で使用してきたときは、特段の事情のない限り、両者の間において、その一方が死亡した後は他方がその不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当である(最判平成10.2.26)」として、それを否定しています。
内縁関係の相手の借家に住んでいた場合
これに対して、他方の内縁配偶者が借りている家に住んでいた場合では、借地借家法36条が、生存している内縁配偶者の居住権を保護するために、相続人がいない場合について、居住用建物賃貸借権の承継を認めています。
しかし、やはり死亡した内縁配偶者に相続人がいる場合はこの規定では居住権の保護を図ることができません。
そこで、判例は、賃貸人からの明渡請求については、相続人が承継した賃借権を生存している内縁配偶者が「援用」するという構成で保護を図っています(最判昭和42.2.21)。
また、相続人からの明渡請求については、前掲最判昭和39.10.13の「権利の濫用」の構成を適用して保護を図ることも可能と考えられます。
[借地借家法]
(居住用建物の賃貸借の承継)
第36条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その
当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と
同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務
を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸
人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
② 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、
同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。
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