10.相続の承認・放棄
相続は、死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。
「一切の権利義務」なので、土地家屋の所有権・賃借権や預貯金といった権利(プラス財産)だけでなく、借金の返済や連帯保証人としての保証責任などの義務(マイナス財産)も受け継ぐことになります(単純承認の場合)。
[民法]
(相続開始の原因)
第882条 相続は、死亡によって開始する。
(相続の一般的効力)
第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を
承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
相続の3つの類型
相続が開始した場合,相続人は次の3つのうちのいずれかを選択できます。
「単純承認」 被相続人の土地の所有権等の権利や借金等の義務を
すべて受け継ぐ
「相続放棄」 被相続人の権利や義務を一切受け継がない
「限定承認」 相続によって得た財産の限度で
被相続人の債務の負担を受け継ぐ
ただし、必ずいずれかを選択して手続きをしなければいけない、というわけではありません。
何もしなかったとき、具体的には、相続人が相続の開始があったことを知った時から、相続放棄または限定承認をしないまま3か月(熟慮期間)が過ぎてしまうと、「単純承認」をしたものとみなされます(民法915条・921条2号)。
「単純承認」をした場合、「無限に被相続人の権利義務を承継」します(民法920条)。つまり、プラス財産だけでなく、借金や保証債務もすべて受け継ぐことになります。
めぼしい財産はなく、ほとんど借金のみという場合、「相続放棄」をすれば、何も財産はもらえませんが、借金も返す必要がなくなります(民法939条)。
また、プラス財産があるがマイナス財産もあり、単純承認では得なのか損なのかがわからない場合、「限定承認」をすれば、被相続人のプラス財産の範囲内で借金を返済すればよく、プラス財産が残れば相続できるし、借金が残っても自分の財産で返済する必要がなくなります(民法922条)。
[民法]
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以
内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。
ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において
伸長することができる。
② 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができ
る。
(単純承認の効力)
第920条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継す
る。
(法定単純承認)
第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第
602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったと
き。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若し
くは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記
載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人
となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
(限定承認)
第922条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び
遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
(相続の放棄の効力)
第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなか
ったものとみなす。
相続放棄・限定承認の手続
相続放棄・限定承認をするには、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所にその旨の申請をする必要があります(民法915・924・938条)。相続放棄は1人でも申請できますが、限定承認は相続人全員が共同して申請する必要があります(民法923条)。
相続財産を何も受け取っていないからといって、相続放棄をしたということにはなりません。また、定期預金を解約したり、車の名義を変更したりするなど「相続財産を処分」したときも、単純承認したとみなされ、相続放棄・限定承認ができなくなってしまいます(民法921条1号)。
3か月の間に相続人が相続財産の状況を調査しても、なお、単純承認・相続放棄・限定承認のいずれをするかを決定できない場合には、期間の延長を家庭裁判所に請求することができます(民法915条1項但書)。
[民法]
(共同相続人の限定承認)
第923条 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみ
これをすることができる。
(限定承認の方式)
第924条 相続人は、限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の期間内
に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しな
ければならない。
(相続の放棄の方式)
第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければな
らない。
相続放棄の効果
相続放棄をすると、その相続に関しては、「初めから相続人とならなかったものとみな」されます(民法939条)。
欠格・廃除の場合と違って代襲相続はせず、次順位の者が相続人になります。したがって、借金の返済等の義務がある場合、それらを次順位の相続人が負う可能性もありますので、注意が必要です。
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