09.行方不明者と相続
相続は人の死亡によって起こります(民法882条)。行方不明者は死亡したことが確認されたわけではないので、そのままでは相続は開始しません。
[民法]
(相続開始の原因)
第882条 相続は、死亡によって開始する。
そこで、実際に死亡しているかどうかは別にして、行方不明者の生死が7年間明らかでないときは、配偶者・親・兄弟・債権者などの利害関係人が家庭裁判所に「失踪宣告」の申立てをすることができます(民法30条1項)。
失踪宣告がなされると、行方不明者は、最後に生存を確認できた時から7年間を経過した時点で死亡したものとみなされます(民法31条)。したがって、それ以降であれば、行方不明者名義の財産について、相続人らは遺産分割をすることができます。
災害などに巻き込まれた行方不明者の場合には、生死が災害終了時から1年間明らかでない場合に申立てをすることができ(民法30条2項)、失踪宣告がなされると、災害終了時に死亡したものとみなされます(民法31条)。
[民法]
(失踪の宣告)
第30条 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請
求により、失踪の宣告をすることができる。
② 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難
に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその
他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
(失踪の宣告の効力)
第31条 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時
に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡
したものとみなす。
(失踪の宣告の取消し)
第32条 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証
明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告
を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後そ
の取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
② 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、
現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。
逆に、「相続人の中に行方不明者がいる」場合、被相続人が遺言を残さないで亡くなると、相続人全員で行わなければいけない遺産分割協議ができないことになります。
このような場合、家庭裁判所に、「失踪宣告」の申立てをするか、または「不在者財産管理人の選任」(民法25~29条)の申立てをすることになります。
「不在者財産管理人の選任」とは、従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合に、不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため、家庭裁判所への申立てにより、財産管理人を選任してもらうことです。
このようにして選任された不在者財産管理人は、不在者の財産を管理・保存しますが、不在者に代わって遺産分割協議をする場合や、不在者の財産を処分する必要がある場合には、「権限外行為許可」という手続が必要となります。
財産管理人は民法103条に定められた権限を持っていますが、それは主に財産を保存することです。遺産分割協議をしたり、不在者の財産を処分する行為は、財産管理人の権限を超えていますので、このような行為が必要な場合は、別に家庭裁判所の許可が必要となるのです(民法28条)。
[民法]
(不在者の財産の管理)
第25条 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管
理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭
裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処
分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様と
する。
② 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管
理人,利害関係人又は検察官の請求により,その命令を取り消さなければならない。
(管理人の改任)
第26条 不在者が管理人を置いた場合において、その不在者の生死が明らかでないと
きは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、管理人を改任すること
ができる。
(管理人の職務)
第27条 前二条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の
目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の
中から支弁する。
② 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求がある
ときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずるこ
とができる。
③ 前二項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存
に必要と認める処分を命ずることができる。
(管理人の権限)
第28条 管理人は、第103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭
裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない
場合において,その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、
同様とする。
(管理人の担保提供及び報酬)
第29条 家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせ
ることができる。
② 家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中
から、相当な報酬を管理人に与えることができる。
(権限の定めのない代理人の権限)
第103条 権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は
改良を目的とする行為
このように、相続人の中に行方不明の方がいると手続きが複雑になりますので、あらかじめそれが分かっている場合、スムーズな相続手続を目指すには、遺言書の作成が必要になります。
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