11.被相続人(亡くなった人)に、債務(借金)がある場合の注意点

債務(借金)の相続

 被相続人(亡くなった人)に債務(借金)がある場合、遺言・遺産分割の内容に関係なく、相続人が法定相続分に従って承継します(民法896・427条、大決昭和5・12・4、最判平成21・3・24)。
 例えば、親に3000万円の借金があり、子3人が相続人であれば、1人あたり1000万円の借金を相続することになります。

[民法]
(相続の一般的効力)
第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を
 承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

(分割債権及び分割債務)
第427条 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないとき
 は、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負
 う。


 たとえ遺産分割協議で、長男が一定の財産(家など)をすべてもらう代わりに借金もすべて支払うと決めたところで、それを債権者に主張することはできません。なぜなら、これが認められると、債権者からしてみれば、支払能力がない人に借金を押し付けるという内容の遺産分割がされる危険性があるからです。

 
このように、遺言・遺産分割協議で債務(借金)についての取り決めをしても、それを債権者には主張できないのです。
 
それでは、債務(借金)を相続しないためには、どのようにすればよいのでしょうか。


相続放棄

 まずは「相続放棄」です。プラスの財産もマイナスの財産(借金)も相続しないのであれば、必ず相続放棄手続をしなければいけません
 
遺産分割協議で遺産を放棄したり、相続をしないという取り決めをしたことによって、相続放棄をしたと勘違いしやすいのですが、それでは相続放棄をしたことにはなりません。それだと、財産はもらえないのに借金は払わないといけないという最悪の事態になってしまいます。

 借金などのマイナスの財産も含めて放棄するには、相続開始時から3か月以内に家庭裁判所に対して相続放棄の申請をする、ことが必要です(民法915条)。
 なお、「相続放棄」の申請前や申請後に、被相続人の車の名義変更や、高額医療費の還付などの申請をして受給すると「単純承認」をしたことになり(民法921条1号)、相続放棄ができなくなってしまう可能性があります。(→ 10.相続の承認・放棄

[民法]
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以
 内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。
 ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において
 伸長することができる。
② 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができ
 る。


(単純承認の効力)
第920条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継す
 る。


(法定単純承認)
第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
 一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第
  602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

 二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったと
  き。

 三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若し
  くは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記
  載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人
  となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。



免責的債務引受け

 次に、「免責的債務引受け」という合意を債権者(銀行など)と各相続人との間で行うという方法があります。
 
例えば、遺産分割協議で長男が借金を支払うと決めた場合に、債権者との間で、債務を負うのは長男だけであり、他の相続人は債権者に対して債務を負わないという内容の合意をする方法です。この合意ができれば、以後、長男以外の相続人は債権者に対して借金を支払う必要はなくなります。

 
遺産分割協議で債務の相続について合意する場合には、その合意内容について債権者の承諾が得られるかを、あらかじめ債権者に問い合わせておく必要があります。そして、遺産分割協議後に、免責的債務引受けの手続きがなされたかを確認することが重要です。


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