13.再転相続

相続の承認・放棄

 被相続人が亡くなり、相続が開始した場合,相続人は「相続の開始があったことを知った時」から原則として3か月以内に相続について「承認」するか「放棄」するかを決めなければなりません(熟慮期間、民法915条1項本文)。なにも手続をしないまま熟慮期間が過ぎてしまうと、「承認」をしたものとみなされます(民法921条2号)。
 承認をした場合、相続人は「無限に被相続人の権利義務を承継」します(民法920条)。つまり、土地家屋の所有権・賃借権や預貯金といった権利(プラス財産)だけでなく、借金の返済や連帯保証人としての保証責任などの義務(マイナス財産)も受け継ぐことになります
 めぼしい財産はなく、ほとんど借金のみという場合、「相続放棄」をすれば、その相続に関しては、「初めから相続人とならなかったものとみな」されるので(民法939条)、何も財産はもらえませんが、借金も返す必要がなくなります。

[民法]
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以
 内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。
 ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において
 伸長することができる。
② 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができ
 る。

(単純承認の効力)
第920条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継す
 る。


(法定単純承認)
第921条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
 一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第
  602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

 二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったと
  き。

 三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若し
  くは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記
  載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人
  となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。


(相続の放棄の効力)
第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなか
 ったものとみなす。



再転相続とは

 それでは、「相続人」が承認・放棄をしないまま3か月以内に死亡した場合はどうなるのでしょうか。
 この場合、「死亡した相続人の相続人」が、初めに亡くなった被相続人の相続についての承認・放棄をする権利を含めて、次に亡くなった相続人の権利義務を相続します。
 これを再転相続といいます。

 例えば、祖父が多額の借金を残したまま死亡したので、相続人である父が相続放棄をしようとしていたけども、3か月の熟慮期間内に父も死亡した場合です。
 この場合は、子が祖父の相続についての承認・放棄をする権利を含めて、父の権利義務を相続します。
 つまり、再転相続人である子は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、祖父の相続(第1の相続)および父の相続(第2の相続)について、それぞれ別々に承認・放棄の選択をすることができます(民法916条、最高裁昭和63年6月21日判決)

 例に挙げた、祖父が多額の借金を残したまま死亡したので、相続人である父が相続放棄をしようとしていたけども、3か月の熟慮期間内に父も死亡した場合では、子は父が亡くなったことを知った時から3か月以内に、祖父の相続(第1の相続)を放棄した後、父の財産状況に応じて、父の相続(第2の相続)について承認・放棄の選択をすることになります。

[民法]
第916条 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期
 間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起
 算する。



再転相続の順序

 それでは、逆に、祖父には財産があり、父が多額の借金を抱えたまま、再転相続となった場合はどうでしょうか。
 子の立場からすれば、「祖父の財産は相続して、父の借金は放棄」したいところでしょう。

 まず、第1の相続と第2の相続の承認・放棄の順序を変えて、第2の相続の承認・放棄を先にすることは可能でしょうか。
 これについては、先に第2の相続を承認してから、第1の相続を承認・放棄することは可能だと思われます。
 しかし、前記の判例によると、先に第2の相続を放棄してしまうと、子は父の「相続人とならなかったものとみな」されるため(民法939条)、父の法律上の地位を承継していないことになり、祖父の相続について承認・放棄することはできなくなります。


「いいとこどり」しようとしても…

 それでは、「まず、父に代わり、祖父の相続を承認し、その後に、父の相続を放棄」することによって、「祖父の財産は相続して、父の借金は放棄」できないでしょうか。
 この点については、残念ながらできないと思われます。

 つまり、子が祖父の相続を承認したことで祖父の財産は父の財産(借金)と一体化します(祖父+父)。
 その後、子が父(祖父+父)の相続を放棄すると、結局、子は父(祖父+父)の相続人でなかったとみなされるため、父(祖父+父)の相続の承認・放棄の選択権は次順位の相続人に移る、と考えられるのです。

 仮に、再転相続でない通常の相続で、父が祖父の相続を承認した後に死亡し、子が父(祖父+父)の相続を放棄するというのは十分あり得る話で、その場合には子は祖父の財産を相続できません。再転相続となった場合でも、これと同様だと思われます。
 財産が「相続によって」移転する場合には、世代を飛び越すことはできず、順番通りに移転しなければならないということですね。


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